フベロ監督は名将である、ゆえに…

「名将」と呼ばれる監督の中には、スタンダードなサッカーではなく、個性的なスタイルを好む人も多いように思う。たとえばミハイロ・ペトロヴィッチ。恐らく彼がどこのチームを率いたとしても観客はこう言うだろう。「あー、ミシャっぽいサッカーしてる」と。独自の哲学を持ち、そのスタイルで勝ち進んでいくことを信念として掲げているからこそ、「名将」と呼ばれ、存在価値が生まれていく。

 

昨季の途中からジュビロ磐田を率いているフェルナンド・フベロ監督もそのタイプの監督であるように見受けられる。6月13日の磐田vs沼津戦(TM)、6月28日の京都vs磐田戦(J2・第2節)をDAZNで視聴したが、ジュビロ磐田が展開したサッカーにははっきりとした個性があらわれていた。そのスタイルを短くまとめるならこうだろうか。「右サイドラインから左サイドラインまでの幅をいっぱいに使い、相手を左右に揺さぶりながら崩そうとするサッカー」。

 

磐田が短いパスを繋ぎながら敵陣に侵入していき、右サイドハーフがコーナーフラッグの辺りでボールを持ったとする。しかし、磐田はここですぐにクロスを入れるとは限らない。相手のディフェンスに隙が生まれていなければ、一旦ボランチまでボールを戻し、中盤でパスを回しながら、今度は左サイドハーフにボールを渡す。ボールを持った左サイドハーフも決して無理はせず、またボランチにボールを戻す。中盤の選手たちはまたボールを右サイドハーフへ……というように、とにかく相手を左右に揺さぶり続ける。そうしているうちに相手ディフェンダーのマークがずれ、磐田のアタッカーがフリーになる状態が生じた時に、初めてボックス内に攻め込み、一気呵成にゴールを狙うのである。TMの沼津戦では、この方法でボックス内において数的優位を作り、見事な先制点を決めた。

 

第2節では京都が、この真綿で首を締めるような攻撃に対し5バック気味で守りきり、隙を突いてピーター・ウタカが2得点を挙げて勝利した。だが、J2において磐田のこの攻撃を耐え抜き、カウンターを決めきれるチームはそう多くはないと考えられる。おそらく、今年のJ2において磐田はかなりの勝ち点を稼ぎ出すだろう。

 

しかし、岡山が磐田に対して勝ち点を献上するかどうかは話が別だ。第2節までの戦いを見る限り、今年の岡山は今年の磐田にやすやすとやられるチームではない。勝ち点3をどちらのチームが獲るかは五分五分とみる。

 

前節、磐田は敗れたが、おそらくフベロ監督は今節も同じやりかたで勝利を目指すだろう。名門チームの再建を任された外国人監督にとって、ただ勝ち点を積み上げることだけが目標ではないはずだ。他のクラブにはない独自のスタイルを構築し、それを掲げてJ1に殴り込むこと――それこそがフベロ監督に求められていることであり、現在のレーゾンデートルとなっていることは想像に難くない。

 

王国再建を委嘱された「名将」であればこそ、フベロ監督はそのスタイルを曲げないし、曲げられない――もしそうだとすれば、岡山としては以下の2点を完遂すれば勝利を引き寄せられる可能性が極めて高い。つまり、「人数をかけてディフェンスし続けること」「カウンターでゴールを決めきること」。

 

前述したとおり磐田は相手のディフェンスに綻びが生じるまで攻め込んでこないが、その理由のひとつとしては両サイドハーフドリブラータイプの選手ではないこともあるだろう。京都の荒木大吾や沼津の染矢一樹のようなタイプの選手が磐田にもいれば、直近2試合の内容も変わっていたかもしれないが、そうはならなかった。磐田のサイドハーフがドリブルで切り込んでくる可能性についてはそこまで警戒する必要がないと思われる。とにかくマークがずれないことを意識しながらスライドし続けることができるか。ミッドフィルダーの選手も含めた総合的な守備力が試される。

 

磐田のサイドチェンジを延々と成功させ続けるパスワークは流石と言うほかないが、それでも成功率100パーセントではない。磐田はボール保持時にはセンターバックまでもが敵陣に侵入してくるので、岡山としては横パスをインターセプトした瞬間、目の前に広大なスペースが生まれることになる。奪取したボールをヨンジェや上門といったスピードと決定力を併せ持った選手たちに供給し、彼らがゴールを決めきることが、岡山の第一の攻撃プランになるだろう。

 

沼津戦においても京都戦においても、試合開始後15〜20分ほどの間は磐田がパス回しで圧倒的に主導権を握り、それ以降は両者が拮抗しはじめる、という経過がみられた。今節においても、まず序盤の15〜20分は特に主導権を握られるかもしれない。辛抱強く守り続けて好機を待ちたい。

 

また、岡山が警戒しなければならない要素として「DFラインからのロングパス」も挙げられる。沼津戦でも好機を演出していたし、(ハイライト動画しか見ることができていないが)2月の山形戦においてもロングパスから先制点を奪っていたようだ。磐田が自陣でボールを持っている時でも、岡山は常にアラートな状態でなければならない。

 

また、オープンプレーで決着がつかず、セットプレーで勝敗が決まる可能性も充分考えられる。上田康太の魔法の左足に大いに期待すると共に、相手のセットプレーには最大級の注意を払わなければならない。2月の磐田vs山形戦でジュビロが挙げた2得点目は、コーナーキックから小川航基の見事なヘディングでのゴールだった。

 

今年の磐田には、川又堅碁アダイウトンカミンスキーといったスター選手はもういない。だが、選手ひとりひとりがJ1級の実力を持ち、フベロ監督の元で統制のとれたサッカーをしている以上、昨年の磐田以上に厄介なチームになっているともいえるかもしれない。

 

フベロ監督の個性がはっきりしているゆえに、こちらの見どころもはっきりしてくるのが面白いところだ。割り切って人数をかけてディフェンスを完遂し、カウンターからゴールを決めきるのが岡山側の理想の試合展開となるが、果たしてどんな90分になるか、今から楽しみで仕方がない。